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こう

未破裂脳動脈瘤手術と高次脳機能


昨日、海老名スタッフのやまださんとお話をしました。いつもお仕事ありがとう。今回はその中から表題の件について。術後の経過として明らかな挫傷性変化や脳梗塞等はないとのことで、時間経過と共に高次脳機能は戻ってくると思います、とお伝えしました。提示出来なかったので少し文献おさらいをしていきたいと思います。

『未破裂脳動脈瘤への手術が高次脳機能に及ぼす影響を検討した報告では、対象例、評価方法、評価時期、評価結果の判定基準の違いがある

70歳以下で前方循環の未破裂脳動脈瘤44 例 に、術 前 お よ び 術 後 1 カ 月 目 に WAIS-R、WMS-R、ROCFTを行い、全体でみて悪化はなく、各症例でみても術前値の2ポイント以上の低下例はないとの報告がある。133Xe-SPECTによる脳血流検査でも、術側の大脳半球脳血流量に有意の悪化は認めなかった』

⇒ここで疑問。神経心理検査として知能検査のみでの評価で良いのか。ROCFTを点数のみで評価したとしたら、あくまでoptic memorabilityの側面のみしか評価が出来ていないことになる。

他のレビューでは

『71歳以上の2例と後方循環系動脈瘤の3例を含む30例を対象に、術前および術後1カ月目にMMSE、Maze テスト、仮名拾いテストを行い、術前の値に比べて術後1 ポイント以上悪化した例は、MMSEで10例、Mazeテス トで13例、仮名拾いテストで17例にみられ、全検査で悪化したものは5例あったと報告している。また 99mTc-ECD SPECTによる脳血流検査の結果、定性的評価ではあるが、前頭葉中心に脳血流低下を9例に認めた』

さらに他のレビューでは

『年齢や瘤部位による除外基準を設けない43例を対象に、 術前および術後1カ月目にMMSE、仮名拾いテスト、Kohs立方体組み合わせテスト、脳研式記名力テストを行い、術前値の20%以上の低下を、MMSEで0例、仮名拾いテストで8例(19%)、Kohs立方体組み合わせテストで 2例(6%)、脳研式記名力テストで11例 (31%)に認めた。また、133Xe SPECTによる脳血流検査を併せて行い、いずれかの検査が悪化した例では手術側の前頭葉にて術後有意な低下を認めた。これらの報告では、前頭葉機能を評価する高次脳機能検査が悪化し,前頭葉での脳血流低下を伴っていた』

⇒このようなレビューがある中、選択された神経心理検査にfrontal系の検査が含まれていない。実際、このレビューの後半には、

『検査実施時期による影響も考えられ、術後1カ月目に高次脳機能の悪化を認めた症例の79%が、6カ月後の再検査では元のレベルに回復するか、改善したと報告している。今回は,知的能力の評価に広く用いられるWAIS-Rで 検討したが、前頭葉機能の評価も必要であろう。』と述べられている。

神経心理検査の内容をデザインし、知的機能以外のfrontal functionを定量的に計測する側面と、手順等を定性的に評価するバッテリーが必要であると思われます。

悪化の因子についてもやや考察されています。

『今回の検討では,IQ悪化は厚い硬膜下液貯留を認めた例に多い傾向にあり、高次脳機能低下に関与する可能性が示された。また,硬膜下液貯留をきたしやすい因子は、脳萎縮の存在であった。ただ、高次脳機能障害が、貯留した髄液の圧迫によるものか既存の脳萎縮によるものかの因果関係は不明である』

参考文献:脳卒中の外科 40: 387 ∼ 393,2012

未破裂脳動脈瘤直達術後の高次脳機能障害をきたす要因とその対策

いずれにしても、高齢症例では侵襲がある術操作後では、MRIでの評価では見えにくい血流変化をきたしやすい。そしてJacksonの原理に基づけば、より高次の機能は脆弱性がより高い。つまり種々の下位機能に支えられている中枢神経系のシステムであるexecutive functionが通過症候群として低下するのは不思議ではないと思います。明らかな損傷のない今回の症例では、ベースの知的機能はもちろんですが、frontal系のテストバッテリーをしっかり組んで前後評価、リハとしてはどんどんworking memoryに負荷をかける内容で良い、との私見です。やまださん宜しくお願いしますね。

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